くらすたのしみ 改訂文庫版 甲斐みのり・著
4/24頃発売 ミルブックス 定価770円(税込) ISBN978-4-910215-22-8 C0177 文庫版・256p
“普段の暮らしの中にこそ、輝くものがある” 他愛ない日々が愛おしくなる、暮らしの愉しみを綴った67の物語
長らく品切れしていた名作に、新たに約2万字の文章と20点の写真、計64ページを加えた改訂文庫版。コロナ禍を経て変化した心情を記した随筆と、豊富な写真が加わったことで、一層暮らしの本質を捉えた、軽やかだけれどより芯の通った名随筆集となった。
暮らしとは私という主語を持つことだ。多くの手本があったとしても真似ばかりではつまらない。少しくらい雑でも、ダメなときがあっても、自分の楽しみを探すことこそ、私が望む暮らしのありかた。迷いながらも衣食住を整え、働き、学び、遊んで、寛ぎ、繰り返す日々の中に、ときどきご褒美みたいな出来事が待っている。(「はじめに」より)
目次より(全7章、67編を掲載) ◎くらすたのしみ 竹久夢二の甘美な千代紙/月曜に微笑む縁起物/文字の美しさを教えてくれた風呂敷/サンタクロースの最後の贈り物/我が家の夏支度/お菓子の箱は宝物/開けられることのない化粧瓶/絵葉書選びの時間/ものを持つ暮らし/もののバトンタッチ/記憶の整理/ずっと一緒の宝物/母からの贈り物 ◎少女遺産 蝶のブローチ/服が喜ぶ木製ハンガー/バニラの香りのハンカチ/雨の日のお気に入り/マキシンの帽子/愛しのカバン/しましまの思い出 ◎旅の中へ 旅に出る本当の理由/スーパーは生きた民芸館/パリのかけら/クラシックホテルの気配/日本橋散歩 ◎古本のある生活 本棚は私の部屋/少女漫画が教えてくれたこと/美しい日本語/炎の中に浮かぶ憧れ/放課後の教科書/やさしいことはつよいのよ/子どもたちよ/初恋をおぼえていますか?/いきという美意識/古本のある生活/本に線を引く/洋子さんの気配 ◎カセットテープの記憶 B面の思い出/歌謡曲は文学/智恵子さんへ/かなしいことり/全てのものはバランスだ/歌こそ私の神様/三月十五日/次の休みは名画座へ/音楽のある生活 ◎猫と富士山 ぬくぬくと温かい静岡/富士市製のトイレットペーパー/静岡県民らしさ/出身地は富士山/父の俳句/猫と甥と富士山/眠る猫 ◎好き 好きが詰まったスケッチブック/好きな言葉を持ち歩く/十年後の私たちへ/愛すべき店は隙だらけ/自分だけの縁起事/三つのケーキ/小さなお友達/絵心/四月を前に/本当にすごい人大人になれば/東京の空/父と言葉/いつか
2005年に初めての著書を出版してから20年が経ちました。 50冊以上の本を上梓しましたが、その大半は写真を活かした作り。 自分でも、わたしがつづる言葉は写真や絵とともにあってこそと そんなふうに思うところがあったので。 しかし学生時代から、食道楽や暮らしの随筆ばかりを読みあさり いつか自分もこんな本を書くことができたらと憧れを抱いてきたのも事実。 なかでも、気軽に持ち運びできて本棚にも並べやすく 枕元に置いて眠ることができる、文庫本という存在は特別なもの。 だからこうして、たべること、くらすことへの日々の思いや大切な記憶を 文庫本という形にできて、とてもとても嬉しいです。 どこから読んでもいい。楽な気持ちでめくってほしい。 喫茶店や電車の中や眠る前のひとときに、寄り添える本であってほしい。 そう願っています。 贈り物にも選んでいただけたらなによりです。
甲斐みのり
新しく生まれ変わった『たべるたのしみ』と『くらすたのしみ』 藤原康二(ミルブックス主宰)
『たべるたのしみ』はタイトル通り食べることの楽しみを綴った文章をまとめたものだ。近年の甲斐みのりさんの代表作ともいえる『日本全国 地元パン』と同様、土地土地に根付いた食の裏側にある歴史を紐解いている。本書にはそれに加え、甲斐みのりさんの食への愛、そして食を通じて語られる家族や様々な人たちとの忘れられない思い出が詰まっている。いつかの日の食の記憶を思い出し、懐かしい人や風景が鮮明に呼び起こされる作品だ。 『たべるたのしみ』の文庫化に際し、新たに約3万文字64ページの文章が加えられた。その中で、かつて拒食症といえるような症状に悩まされた暗黒の日々と、そこから立ち直り食への向き合い方が大きく変わった貴重な経験を包み隠さず、正直に真摯に綴ってくれた。 そして、天国に旅立ったお父さんとの食の記憶を記した「銀座で夕方四時」が新たな1章として描かれている。食を通じて最後にお父さんが身を以て伝えてくれた大切な教示は、涙なしでは読むことができなかった。平熱で書かれた文章の中に、お父さんへの熱い想いが凝縮されている。 新たにこの1章が加わったことで、本書が違う意味を持つ本になったことに、ふと気がついた。これは甲斐みのりさん版の『父の詫び状』ではないだろうか。『父の詫び状』は向田邦子さんが父と家族のことを記した随筆集である。明治の生まれで理不尽な言動も多かった向田さんのお父さんとは違い、甲斐さんのお父さんは娘の成長を常に優しい目線で見守った。その点において大きな違いはあるものの、共通するのは父に向けられた愛情の深さである。新たな随筆が加わり改訂された『たべるたのしみ』をじっくり読み直しながら、これは甲斐みのりさんが天国のお父さんに宛てた恋文なのではないかと思った。 そして『くらすたのしみ』は甲斐みのりさんの本質が鮮明に描かれた随筆集に仕上がった。一冊を通して、他愛ない日々が愛おしくなる、暮らしの楽しみを綴っているが、その視点はより多岐に渡っている。『くらすたのしみ』は新たに約2万字の文章と20点の写真、計64ページが加わった。コロナ禍を経て変化した心情を記した随筆と、豊富な写真が加わったことで、一層暮らしの本質を捉えた、軽やかだけれどより芯の通った名随筆集に仕上がっている。 誰しも、記憶の中でずっと輝き続けるものがあるだろう。たとえそれを忘れていたとしても、本書を読み終える頃には胸の奥に眠っていた思い出が浮かび上がってきて、キラキラと光る物語として再び心に輝きを与えてくれるはずだ。そして、普段の暮らしの中にこそ輝くものがあることに気づくだろう。『たべるたのしみ』と『くらすたのしみ』に収められている随筆は甲斐みのりさんの話ではあるが、読んでくれた皆の物語なのだ。
*サンクチュアリ・パブリッシング扱い
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