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たべるたのしみ 改訂文庫版

永遠に輝き続けるおいしい味の記憶を綴った69の物語

たべるたのしみ 改訂文庫版
甲斐みのり・著

4/24頃発売 
ミルブックス 定価770円(税込)
ISBN978-4-910215-21-1 C0177 
文庫版・256p

“私にとって食べることは、生きることだ”
永遠に輝き続けるおいしい味の記憶を綴った69の物語

地元パンブームを生み出した人気書『日本全国 地元パン』の著者・甲斐みのりが書籍・新聞等に寄稿した〈食〉にまつわる膨大な随筆から厳選し、大幅加筆して再構成。新たに約3万字64ページの文章を加え、待望の文庫版で発売。天国の父に捧げた新章『銀座で夕方四時』は涙なしでは読めない名文。食をテーマにしながらも、新章が加わったことで向田邦子の名作『父への詫び状』の甲斐みのり版とも言える、父そして家族への愛に満ちた名随筆集が誕生した。

人生最後になにを食べよう。最近ことに考える事柄だ。親しい誰かと話題にすれば間違いなく盛り上がり、好物を並べたてては互いの食いしん坊ぶりに笑いがこぼれる。私にとって食べることは、生きることだ。最後までしっかり意思を持って食べるんだという“人生最後の食” への思いは、生きることへの執着でもあり、誰にも必ず訪れる終わりのときの享受でもある。(「はじめに」より)


目次より(全6章、69編を掲載)
◎おやつの記憶
記憶の中のジャムパン/そよ風のゼリー/心が和らぐ秋の味/甘く優しいみかんゼリー/ロマンチックな甘い粒/特別な日のウェディングケーキ/雲を食むような甘い砂糖菓子/カステラの夢/小花の飾りの角砂糖/虹色のラムネ/おいしいとこいしい/はじめてのおいしい贈りもの/お裾分けだって立派な贈りもの/真剣勝負の贈りもの選び/できたてを届けたくて/カバンの片隅で微笑む赤い頬/ここでしか味わえないおいしさ/おいしいという声が聞きたい/贈りものノート/りんごジュースは父の贈りもの 
◎たべるたのしみ
チャイ/おいしいものノート/甲斐コーヒー/静岡産の茶箱/思い出の茶缶/ポットの湯気と音/日曜日のパンケーキ/紅茶茶話/善福寺川ピクニック/香りの贈りもの/京都生まれの台所用品
◎おいしい予感
静岡を味わう/三河屋のはんぺんフライ/庭バーベキュー/甘いアイドル/おいしい予感の原風景/困ったときの玉ねぎ頼み/カルテット/料亭の鯖ずし
◎旅のかけら
最も憧れた東京の街/新年の風物・チンコロ市へ/ホテルオークラ東京で朝食を/東京の台所探訪/民俗学に通じる地元パン学/牛乳パンの謎解きに/求めたその日に味わう贅沢/南蛮文化の名残り味/喉をすべる甘い水泡/奥の細道むすびの地/おみやげは銀座パン 
◎甘い架け橋
美穂子さんのこと/最初の手紙/中目黒駅とチーズケーキ/六曜社地下店の奥の席/小包で届いた蛍/なにより手紙で/記憶を残してくれるお菓子/修さんのコーヒーの味/六曜ガール/甘い架け橋
◎銀座で夕方四時
食は経験/歌舞伎座の俳句/日本酒の味/本郷三丁目界隈、父とともに/父とままやへ/父と蕎麦を手繰る/シンスケ/父はなんでも知っている/父の最後の贈りもの 





2005年に初めての著書を出版してから20年が経ちました。
50冊以上の本を上梓しましたが、その大半は写真を活かした作り。
自分でも、わたしがつづる言葉は写真や絵とともにあってこそと
そんなふうに思うところがあったので。
しかし学生時代から、食道楽や暮らしの随筆ばかりを読みあさり
いつか自分もこんな本を書くことができたらと憧れを抱いてきたのも事実。
なかでも、気軽に持ち運びできて本棚にも並べやすく
枕元に置いて眠ることができる、文庫本という存在は特別なもの。
だからこうして、たべること、くらすことへの日々の思いや大切な記憶を
文庫本という形にできて、とてもとても嬉しいです。
どこから読んでもいい。楽な気持ちでめくってほしい。
喫茶店や電車の中や眠る前のひとときに、寄り添える本であってほしい。
そう願っています。
贈り物にも選んでいただけたらなによりです。

甲斐みのり





新しく生まれ変わった『たべるたのしみ』と『くらすたのしみ』
藤原康二(ミルブックス主宰)

『たべるたのしみ』はタイトル通り食べることの楽しみを綴った文章をまとめたものだ。近年の甲斐みのりさんの代表作ともいえる『日本全国 地元パン』と同様、土地土地に根付いた食の裏側にある歴史を紐解いている。本書にはそれに加え、甲斐みのりさんの食への愛、そして食を通じて語られる家族や様々な人たちとの忘れられない思い出が詰まっている。いつかの日の食の記憶を思い出し、懐かしい人や風景が鮮明に呼び起こされる作品だ。
『たべるたのしみ』の文庫化に際し、新たに約3万文字64ページの文章が加えられた。その中で、かつて拒食症といえるような症状に悩まされた暗黒の日々と、そこから立ち直り食への向き合い方が大きく変わった貴重な経験を包み隠さず、正直に真摯に綴ってくれた。
 そして、天国に旅立ったお父さんとの食の記憶を記した「銀座で夕方四時」が新たな1章として描かれている。食を通じて最後にお父さんが身を以て伝えてくれた大切な教示は、涙なしでは読むことができなかった。平熱で書かれた文章の中に、お父さんへの熱い想いが凝縮されている。
 新たにこの1章が加わったことで、本書が違う意味を持つ本になったことに、ふと気がついた。これは甲斐みのりさん版の『父の詫び状』ではないだろうか。『父の詫び状』は向田邦子さんが父と家族のことを記した随筆集である。明治の生まれで理不尽な言動も多かった向田さんのお父さんとは違い、甲斐さんのお父さんは娘の成長を常に優しい目線で見守った。その点において大きな違いはあるものの、共通するのは父に向けられた愛情の深さである。新たな随筆が加わり改訂された『たべるたのしみ』をじっくり読み直しながら、これは甲斐みのりさんが天国のお父さんに宛てた恋文なのではないかと思った。
 そして『くらすたのしみ』は甲斐みのりさんの本質が鮮明に描かれた随筆集に仕上がった。一冊を通して、他愛ない日々が愛おしくなる、暮らしの楽しみを綴っているが、その視点はより多岐に渡っている。『くらすたのしみ』は新たに約2万字の文章と20点の写真、計64ページが加わった。コロナ禍を経て変化した心情を記した随筆と、豊富な写真が加わったことで、一層暮らしの本質を捉えた、軽やかだけれどより芯の通った名随筆集に仕上がっている。
 誰しも、記憶の中でずっと輝き続けるものがあるだろう。たとえそれを忘れていたとしても、本書を読み終える頃には胸の奥に眠っていた思い出が浮かび上がってきて、キラキラと光る物語として再び心に輝きを与えてくれるはずだ。そして、普段の暮らしの中にこそ輝くものがあることに気づくだろう。『たべるたのしみ』と『くらすたのしみ』に収められている随筆は甲斐みのりさんの話ではあるが、読んでくれた皆の物語なのだ。



*サンクチュアリ・パブリッシング扱い